( 090927 )



もう一度生まれてくるなら貴方の隣がいい、


曝け出された真っ白な素肌に唇を寄せるエースは酷く優しくて、まだなにもしていないのに いつだって私は泣きそうになる。壊れ物を扱うみたいにゆっくりと遠慮がちに触れてくる指先、触れるだけの 啄むような淡い口付け、それだけで私はぴくりと身体を震わせ彼の焦燥を煽ってしまう。 エースは慈しむように傷をつけないように大切に大切に私のことを抱く、からそのせいで時折私が 言い表し難い程の罪悪感に苛まれていることなんて知らないし、知らなくていい。

唇に、瞼に、首筋に、繰り返される口付けは段々長く一度深みに嵌ればもう戻ることはできなくなる。 熱に浮かされ伸ばした指先が彼の肌に触れる前に骨張った大きな手に容易く絡め取られた、そうして爪先まで 余すとこ無く彼の侵食を受け入れる。


「冷てェな、指」
「ん、エースが...熱い、んだよ、」


そうかもな、と笑って暗闇に浮かぶ私の白い指先がエースの口元で消える、飲み込まれる、丁寧に 熱い舌が這い回る感触にくらくらと目眩がする。一本ずつ咥えられ温度を与えられる指先に 「ん、っ」と感じていることを示すようなくぐもった声が漏れるとエースが満足そうな表情を浮かべた、気がした。 あまりに官能的なその光景に思わず目を背けてしまうから、いつも彼がどんな顔をして私を見つめているのか 分からない。「こっち向けよ、」とエースが少しだけ低い声を出した、けれど私はふるふる首を横に振って できるだけ深く顔を枕に埋める。


、」
「っ、やだ、」
「顔見せろって。な?」


彼の艶かしい吐息が感じられるほど近くで囁かれてしまえば逆らえないことを知っている。意地悪だ。 非難の色を交えて睨みつけていると「んな顔すんなよ、」苛めたくなるだろ、なんて口では言うくせに やんわり身体を撫でていく熱を孕んだ掌は私の負担にならないように・と気遣うことを忘れない。 彼の手の動きに合わせて呼吸を乱す私には到底そんな余裕なんてないけれど、 力任せに強引に抱いてくれたって構わないのにと思う。すきなようにすればいい、いくら私が泣き叫んでも。 だけどエースは優しいから、優しすぎるから、絶対にそんなことはしないだろう。 彼に無理をさせてしまっている、それが何よりもどかしい。


「...ごめんな、


眦に溜まった雫を掬われ初めて自分が泣いていることを知った。 涙を流す理由なんてない筈なのに生理的なそれは次から次へと溢れ出す、その度エースが 涙を拭った唇でそのまま優しいキスをくれる。 滲んだ視界の中で見上げた彼は苦しそうに眉を寄せ、少し困ったように苦笑っていた。 こうやって私は無意識のうちに彼を責めることしかできない。初めて出逢ったときから、ずっと。

だけど貴方はまっすぐでどうしようもなくなる。時に眩しすぎるくらいの光で照らすから、 太陽に暴かれた私を知られるのがとても怖い。(知ったらきっと離れていってしまう、) 貴方が愛してくれる分のひとつだって返せていない私を、貴方はそれでも愛おしいと紡ぐ。


「愛してる、」


私も、と言えたらなんて素敵な物語。それが叶わないのならせめてこの罪深い想いの欠片でも 貴方に届くようにと祈りながら、私は悲鳴にも似た声を静寂の帳に響かせよう。



臆病、故に


BGM : 落日 / 東京事変