階級章のカミツレの花がひとつからふたつに増えた頃、堂上は防衛部から図書特殊部隊に配属された。
もう何年も前の話になる。図書大学校を次席で卒業しただけに、同期で防衛部に配属された者たちより
昇進や選抜も早かった。その年の同期で特殊部隊に選抜されたのは三名。
うち、拝命したのは堂上と大学校を首席で卒業した小牧の二名。自分と小牧の隣に並んで挨拶する筈だった、
ある意味では女性初の特殊部隊員が出るのではないかと一番注目されていた―小牧、堂上に次いで
三番目の席次で大学校卒業したの姿がそこにはなかった。
「生まれ変わりってあると思う?」 あたしは、信じないな。いつになったら衰えを見せるのかと嘆息するような洗練された銃裁きを、堂上は彼女の背後で 無言のままに見つめていた。武蔵野第一図書館に隣接する、関東図書基地内の地下狙撃場。 本来戦闘職種以外が出入りして良いような場所ではないのだが―などと野暮ったいことを堂上は口にしない。 自分たちが図書特殊部隊に配属されたのとほぼ同時期かその少し前に、彼女が防衛部から 業務部に転属していたことを知ったのは随分後になってからだった。稀に見る戦闘能力、ひいては正確すぎるその銃裁き を失うのは痛い・と当時は上層部でも騒がれていたほどらしいが、誰よりも一番唇を噛み締めたいのは本人だという ことを知っていた。未練はないとあっけらかんと言い切ってみせた彼女。 あたしはもう戦えないから。代わりに、君が戦って本を護って。 「人は生まれて、死んで、終わりなの。だから次は無いんだよ」 「また随分と偏屈な考え方だな」 「という個人の本質を形作ることができるのは一度だけっていう意味」 スッとの集中が研がれて、人の形を模した板の急所に弾丸が打ち込まれる。次も次も次も。機械のような正確さで五発。 が人目を盗んで射撃場に現れるのは、過去を払拭しきれていない自分に嫌気が差して卑屈になっている時だ。 そうなると堂上にできることはなにもない。ただ彼女が言ったように、彼女の代わりに戦って、身を盾にして本を護ることしか。 「俺が死んで、もし生まれ変われたら。その時はお前に教えてやらんでもない」 「...なに、それ。あたしが生きてる間に死ぬつもり?」 「戦闘職種だしな。可能性は否定できん。それに確か男の方が寿命は短いんだろう」 淡々と述べる堂上を無視して、はもう一度黙り込んで銃を構えた。最後の一発。外れる―戦場の第一線で 培ってきた直感が堂上にそう告げる。案の定銃口から放たれた弾丸は急所から数センチほど外れた箇所に着弾した。 大きく息を吐く音。「やっぱり駄目だ、あたし。帰ろ」この程度で動揺してちゃ当たるもんも当たらないわ。と サングラスを外しつつが自嘲気味に呟くが―そもそも業務部所属の図書館員がそんな物騒なもので 一体何を当てるつもりなんだ。頼むから大人しくしててくれ。内心で堂上が切実に願ったことを この聡い同期が気づいたか気づいていないかは不明である。 「...あたしより先に死んだら、許さないから」 「ああ。善処する」
祈りはいつも君の姿で
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