珍しい後姿が半壊状態のトレミーを歩いているのを見て声をかけた。
自分と同時期に空へ上がったが、その後頻繁に地上と空を行き来してる整備士の彼女。
黙々とプトレマイオスの修復作業に取り掛かっていたらしい彼女はライルの声に
数秒此方を振り向いただけで、また端末と睨めっこをし始めた。
暗に忙しいから話しかけるなと告げているらしい。
それに気付いていながら、ライルは彼女に近付き再度声をかけた。
は諦めたように深い溜め息を吐いて「...どうも」とだけ返す。
残念ながら視線は未だ端末に向けられたまま。
「珍しいな、あんたがこっちに来るなんて」 「トレミーが地上に落っこちた、しかもイアンさんが重傷だって言われてすっ飛んで来ないわけにはいきません」 なるほど・と納得。ミッションは成功したから良いようなものの、此方もダブルオーと逸れるわ母艦に穴が開くわと 相当の痛手を受けて地上に落ちた。加えて搭乗している総合整備士が動けないとなれば彼女が飛んで来ざるを 得ないだろう。流石にミレイナと沙慈とかいう一般人とAIロボットたちだけですべてを修復するのには多少、いやかなり 無理がある。いつ来たんだ?と訊ねれば「今朝。ティエリアに迎えに来て貰った」との答え。...知っていたら 自分が迎えに行ったものを。少しだけ不満に思ったのは秘密だ。 「来て吃驚した、トレミーがこんな状態で。修復だいぶかかりそう」 「そりゃ大変だ。...つーことは、暫くこっちに滞在するのか」 「誰かさんが防御用のビットまで綺麗に壊してくれたお陰でね」 ちょっと待った、ビットを壊したのは俺のせいかよ。ミッションプランに入ってたんだがら戦術予報士のせいじゃないのか。 内心独りごちるが勿論彼女の耳には入らない。 「だから、最悪このまま合流してくれってスメラギさんが」と 半壊の艦内から本来見えるはずの無い青空を見上げて、は肩を竦めて見せる。 「なんだ、嫌なのか?」「嫌っていうか...まあ、ちょっとだけ」 どうして・とは敢えて聞かなかった。 理由はなんとなく分かっていた。彼女は戦いを望まない。もう命の散り際を間近で感じるのが耐えられないのだろう。 けれど組織に参加した以上それが許される言い訳ではないことをは知っている。彼女は必死に抗っていた。 それに少なからず自分も関係していることは明白だが、そこには触れないことが暗黙の了解だ。 空は墓場。戦争は仇。―彼女は自分をロックオンと呼ばない。それだけでもうたくさんだ。 「やっぱり嘘、嫌じゃないよ。...ごめん」 「なにがだ?そういやあんた、作業しすぎで腹減ってるだろ」 「え、いや別に...まだやること残ってるし、」 「俺も腹減ったんだ。休憩がてら付き合ってくれると嬉しいんだが」 どうだ?と訊ねると彼女は「...どうしてもって言うなら」と作業を中断させてライルに向き直った。 「ライル、」頭ひとつぶん以上低い位置にある彼女の視線がやっと見上げるように自分へと注がれた。...端末は その手にしっかりと握り締められているが。 「さっきの嘘。貴方が居てくれたからミッションは成功したって聞いた。...無事に帰ってきてくれて、有難う」 これはまた大した攻撃だ。「嘘吐きなんだな」「お互い様でしょ」 と言って笑って見せた彼女も、どうやら此方の嘘に気づいているらしかった。 (さてはさっき昼飯食ってたの見られたかな)
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