白ひげ海賊団、食堂にて。
「あれ、マルコさん左利きですか?」 今朝一番の新聞を拡げつつ朝食を摂っていたマルコはその声を聴いた途端に苦虫を噛み潰したような顔をした。 おはようございます、と自身の朝食を携えて当然のように正面に席を取った声の主であるは マルコとは対照的ににっこりと笑みを浮かべている。 「お前...まだこの船に居たのかよい」 「やだなあ、嬉しくて仕方ないって顔してますよ」 「ほんとにそう見えるなら医者に診て貰え」 「ふふ、冗談です。昨晩話し込んでしまって」 商人であり情報屋でもあるは白ひげを相手に交渉や取引のできる数少ない人間であった。 昨日、日没前に武器や食糧を積み込んだ愛用の小型帆船で現れた彼女はこの船に 到着するなり船長室へと消えたためそれ以降姿を見ることはなかったのだが―此処に 滞在していたのなら、そうだと一声かけてくれればよかったのに。 「心配しなくても、朝食を頂いたら出て行きますから」 「......そりゃァ、ご丁寧にどうも」 別に出て行って欲しいわけじゃない、という言葉はなんとかコーヒーと共に嚥下した。 は別段それを意に介した風もなく、相変わらずにこにこと微笑んだまま 朝食を口に運ぶ。マルコはその姿を隠すように黙々と左手で朝食を摂りながら、右手でばさりと新聞を拡げた。 「器用ですね、それ」 「別に普通だろい」 「両利きでしたっけ」 「まァ、そんなところだよい」 「文字を書くのは?」 「両方だなァ」 へえ、と感嘆の声が漏れた。見ればまじまじと自分を見つめると目が合う。夕陽を溶かし込んだような明るい瞳の色。 女性らしく滑らかで白い肌に、長い睫毛。 日に焼けた金髪は痛むことなくさらさらと肩の上で揺れている―こんなに近くで彼女を見たのは久々だった。 「お箸は?」 「左」 「フォークとスプーンは?」 「どっちでも」 「身体を洗うのは?」 「右だよい」 「じゃあセックスをする時は?」 ぶ、と思わずコーヒーを噴き出しそうになったが聞いたの調子は至って普通であった。にっこり。 営業用の笑みを貼り付けて笑う、いつもより近くで見ているせいか、そんなところがたまらなく嫌だと思った。 最後にちゃんと笑った彼女を見たのはいつだっただろう。 「......確かめてみろよい」 きょとんと目を丸くして、それまでの表情を少しだけ崩して、どこか寂しげに 彼女は眉を下げて苦笑った。...その顔の方が、ずっといい。「冗談が、過ぎました」逃げるように 視線を逸らす様は珍しい。マルコは気取られないように喉元でくつくつと笑った。 「やれやれ...敵いませんね、貴方には」 「良い情報は仕入れられたかよい」 「ええ、とても。今すぐ誰かに売りたいくらい」 「そりゃァ大変だ」
彼等の愛に耳を傾けてはいけない
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