「ねえ、本当なの!?あなたが...あなたが、ブラックと付き合ってるだなんて!」
天気の良い午後、グリフィンドールの談話室ではまるでこの世の終わりだとでも言わんばかりに悲痛な色を帯びた リリーの悲鳴が響き渡った。晴れ渡る空の下で午後の時間を有意義に過ごそうと考えた生徒が多かったせいか 談話室に然程の人影は無かったが、のように提出用のレポートを仕上げようと居残っていた数人の生徒が 聞くともなしに聞こえてきたリリーの言葉を受けて「え!?」 と短く声を漏らすのを留めきることができなかったようだ。肖像画の穴から勢いよく飛び込んできた親友を見ても 「声が大きいよ、エバンズ」と一言発しただけで当の本人のは至って冷静ではあるが。 「もう、リリーって呼んでって言ってるのに...って、そうじゃなくて!」 「ごめん、次から気をつける。これでいい?」 「ええ、いいわ...いいけど、本当なの?あー、ブラックのこと?」 流石に談話室に居残っていた生徒(殆どが女子生徒だが、)が揃いも揃って聞き耳を立てているのに気がつくと バツが悪そうに声を潜めたリリーがの傍に寄って再度同じ質問を投げかける。 緑の瞳でずいっと見つめてくる親友の気持ちを知ってか知らずか、あくまでも淡々とした口調で 「ほんと。ポッターにでも聞いたの?」と明日の天気の話でもするかのように がさらりと言ってのけた。と、同時に2人の会話に耳を欹てていた女生徒たちの口から次々に落胆の溜め息が漏れる。 シリウス・ブラックと言えば、なにもグリフィンドールに限らず他の寮からもその端正な顔立ちと抜きん出た才能の 持ち主として非常に人気の高い有名人のひとりである。彼の無二の親友で、これまた有名人であるジェームズ・ポッターが 目下このリリー・エバンズに猛烈アタック中であるからして「ああ、愛しのエバンズ、 君もがシリウスの気持ちを受け入れたように、僕の気持ちも受け入れてくれればどんなにいいか!」などど 戯言を言ったのだろう。その様子が容易に想像できては少し微笑んだ。 「そう...そうなの。ええと、それじゃあ、理由を聞いても?」 「理由?ないけど、まあ断る理由がなかった...っていうのが、理由」 明らかに「そんな理由で、」とでも言いたげな 表情の親友を見つつ「そんなことより、エバンズ(リリーに睨まれる)...違った、リリー。 魔法薬のレポートを仕上げるの手伝ってくれない?」どうにも苦手教科のレポートは思うように羽根ペンが 進まなかったが名案を思いついたとばかりにリリーに頼み込む。 が、その提案を不機嫌な彼女が(何せ自分の親友が世界一大嫌いな男の親友と付き合うことになるとは夢にも思わなかったのだろう、) 受け入れたか否かは背後からした陽気な声にかき消され結局分からず仕舞いとなった。 「ほらエバンズ!僕の言ったとおりだったろう!なあ、シリウス?」 「...どうでもいいけどな、友よ。彼女の信用を勝ち取る為に俺を利用するのはやめてくれ」 肖像画からジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターといったあの4人組が現れてますます不機嫌になったリリーが 「どうも、お陰さまでね!」と勝ち誇ったようなジェームズの言動につっけんどんに言い返す。 2人がいつものように言い争っている間を縫って(リーマスは傍観を決め込み、ピーターはおろおろしている、) 優雅に黒髪を靡かせたシリウスがの傍までやってくる。そして彼女の手元を覗き込み 「なんだ、魔法薬のレポートか。俺の見せてやろうか?」というシリウスの申し出にが返した言葉を聞いて、今度こそリリーは絶句した。 「ほんと?有難う、シリウス」 (っ、どうしてブラックだけファーストネームで呼ぶの!?) title by : 星が水没 |